Single 「シングル」と家族/縁(えにし)の人類学的研究

member/メンバー

Akiko Kunihiro

國弘 暁子

所属 群馬県立女子大学・文学部・総合教養学科 専任講師
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対象、テーマ テーマ:ヒジュラ、養子
フィールド インド

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研究の予定

これまで、インド、グラジャート州において、現世放棄者である「ヒジュラ」の共同体に関する調査を実施してきた。
「ヒジュラ」とは、男性としての生をすてて、親兄弟のもとを離れ、女性の装いを纏ったヒンドゥー女神の帰依者として生きる人々である。通常ならば、男性としての生をうけた者は、己の親族の永続化に資する義務を負うが、その男性がヒジュラになるということは、その義務を放棄して、世俗の規範に抗した生き方をすることになる。親族の永続化に資すことなく、親族との縁を切り、「己」ひとりの死に向かって生きることになるが、ただし、ヒジュラとして死を迎えることは、完全な孤独を意味するのではない。同じく女神の帰依者として生きる仲間と共に、他者の死を経験しあう関係を築き、その役割関係の中で生きるのである。
今後の研究予定としては、非血縁によるヒジュラの親族なるものの形成に考察の的を絞りながら、さらに、インドで広く行われている養取慣行の現状調査にも着手することを考えている。人が人との関係を断ち、あるいは関係を断たれ、独りにならざるを得ない状況や、そこから新たに築き上げる人間の絆の中で、己としての承認を他者から獲得していく生き方について、この「『シングル』と家族」の研究会を通じて、熟思していきたい。
血縁観念に抗するヒジュラの伝統的な共同体(親族なるもの)の形成や、近代国家における合法的養取慣行の調査を実施することにより、己の身体を血のつながりのない他者に委ね、あるいは他者の生命を譲り受けるという生命贈与の慣行に付随する様々な問題点を描きだす。理想とされる家族像とのズレを浮き彫りにし、そのズレから、本物の家族と「偽物」の家族との両者を通底する、ヒトとヒトとの「縁(えにし)」の意義に着目し、人類学における親族研究に貢献したい。
 

 

おもな業績

<単著>
『ヒンドゥー女神の帰依者ヒジュラ:宗教・ジェンダー境界域の人類学』風響社2009年
「ヒジュラとセックス―去勢した者たちの情交のあり方」奥野克己、椎野?若菜、竹ノ下祐二(共編)『シリーズ 来るべき人類学:セックスの人類学』横浜: 春風社 2009年

<論文>
「『ストリート』を経験する―ヒンドゥー女神バフチャラー信仰とヒジュラ」関根康正(編)『ストリートの人類学』上巻、国立民族学博物館調査 報告80号、pp.289-312 、2009年
「異装が意味するもの:インド、グジャラート州におけるヒジュラの衣装 と模倣に関する研究」神奈川大学COE『若手研究者育成成果論文集』、pp.153-164 、2008年
「ヒンドゥー女神帰依者としてのヒジュラの多義性:インド、グジャラー トにおけるヒジュラの存立構造に関する文化人類学的考察」 お茶の水女子大学大学院博士(人文科学)学 位申請論文、2006年
『ヒジュラ― ジェンダーと宗教の境界域』、富士ゼロックス小林節太郎 記念基金小林フェローシップ2004年度研究助成論文(『ジェンダー研究』第8号掲載論文の転載)2006年
「ヒジュラ:ジェンダーと宗教の境界域」お茶の水女子大学ジェンダー研究センター年報『ジェンダー研究』・第8号、pp.31-54 、2005年
書評「REDDY, GAYATRI. 2005 With Respect To Sex: Negotiating Hijra identity in South India.」『社会人類学年報』34号、pp.221-227 、2008年    
「結婚しないヒジュラのプライベートな生き方って?」『Field+巻頭特集「シングル」で生きる(責任編集・椎野若菜)』 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、p.7 、2009年
「『ベルダーシュ』―異性装から『異装』研究へ―」神奈川大学COE『非文字資料研究』No.19、p.5 、2008年3月
「性とジェンダーをどうとらえるか -人類文化における普遍性と特殊性の一事例研究」 神奈川大学COE『非文字資料研究』、pp.19-21 、2007年3月
「インドにおけるフィールドワークの実践」神奈川大学COE『非文字資料研究』、p.30 、2006年9月
 

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