Single 「シングル」と家族/縁(えにし)の人類学的研究

member/メンバー

Ikuko Koike

小池 郁子

所属 京都大学人文科学研究所
URL http://www.geocities.jp/koike_resume/
対象、テーマ アフリカ系アメリカ人による社会運動(オリシャ崇拝運動)、宗教による疑似家族関係の形成、人種と「シングル」
フィールド アメリカ

左:オバタラ(人類創造の神)祭

右:オバタラへの供物とオビ託宣(手前)

シングルについての研究課題

これまでに、アフリカ系アメリカ人(アメリカ黒人)の社会運動について、その歴史的展開を追いつつ、文化人類学の視点から調査研究をしてきた。オリシャ崇拝運動とよばれるこの運動は、1950年代半ばのアメリカ合衆国で、公民権運動が広がりをみせるなか、「反白人・反キリスト教」を掲げて始動した。彼らは、アメリカ黒人にはみずからの文化を実践する場所が必要であるという思想哲学から、米国南部に一種のコミューン(生活実践共同体)を建設し、そこでオリシャと呼ばれる西アフリカのヨルバの神々を崇拝し、ヨルバの伝統的な生活様式を再現しようとした。その後、1980年代半ば頃からこの運動は転換期を経て、運動の成員がコミューンを離れ、米国の各地に個人の崇拝組織を設立し、日常生活の中でオリシャ崇拝を実践している。
本研究では、これまでの調査研究を踏まえて次の事象に注目する。米国では、アメリカ黒人の共同体の特徴を、「伝統的」な家族体系の崩壊と結びつけて論じる傾向がある。これについては様々な議論があることはいうまでもないが、このことは、アメリカ黒人の共同体がその内外から「父親不在」の共同体として表象されることと関係がある。アメリカ黒人の男女ともが「シングル」という問題に直面している。
そこで、本研究ではおもに次の二つ課題に取り組む。①オリシャ崇拝運動が、伝統的家族体系が崩壊したとされるアメリカ黒人の共同体において、疑似家族関係(宗教上の家族関係)をどのようにつくりだし、その関係(縁)が「父親不在」の共同体の中でどのように作用しているのか。②米国という国家が、アメリカ黒人の共同体における「シングル」をいかに語り、問題化してきたのか。また、米国という国家が想定する正しい家族の在り方と、オリシャ崇拝運動が崇拝者に提供する家族観はどのように呼応しているのか。近代国家がつくりだした家族体系から逸脱しているとされるアメリカ黒人の共同体で、代替的な家族体系と価値観がどのように創造されているのかを検討する。それによって、現代社会におけるシングルという視点が、より一層豊かな視点から理解、議論されることを期待する。

 

 

主な業績

論文

2011 「想像/創造されたアフリカ性の時間——アフリカ系アメリカ人のオリシャ崇拝運動の初期から衰退期をめぐって」西井凉子編『時間の人類学——情動・自然・社会空間』世界思想社、 pp. 301-332.
2011 「合衆国のアフリカ王、オセイジェマン・アデフンミ——大西洋をわたる「ヨルバ人」がおりなす社会運動の変容」真島一郎編『二〇世紀〈アフリカ〉の個体形成——南北アメリカ・カリブ・アフリカからの問い』平凡社、 pp.104-138.
2011 「コンタクト・ゾーンとしてのオリシャ崇拝運動——アフリカ系アメリカ人の社会運動とキューバのアフリカ系宗教との境界をめぐって」『コンタクト・ゾーンの人文学:宗教文化系』晃洋書房、 近刊.
2010 Changing Orisa Worship: “Anti-White/Christian” Ideology and the Black Relationships with “Africa” in the Yoruba American Socio-Religious Movement. ZINBUN, No.42, pp.63-85.
2010 「複数文化接触領域としてのオリシャ崇拝——アフリカの神々を崇拝するアフリカ系アメリカ人の社会運動の展開」『Contact Zone』第3巻、 pp.33-71. 京都大学人文科学研究所
2008 「コミューンから聖地へ——アフリカ系アメリカ人のオリシャ崇拝運動における拠点の変容 」『人文学報』第97号、 pp.1-78.
2007 (forthcoming) Orisa Worship in Florida: A Study of the African American Socio-Religious Movement in the US. In Robin Poynor et al eds. Africa in Florida, Gainesville: University Press of Florida.
2007 「オリシャ崇拝を軸にした宗教的移動がおりなす相互交渉的な文化接触——ナイジェリアへわたる〈アメリカ黒人〉とアメリカへわたる〈アフリカ大陸の黒人〉」『人文学報』第95号、 pp.77-104.
2005 Embodied Orisa Worship: The Importance of “Physicality” in the Yoruba American Socio-Religious Movement. In Toyin Falola et al eds.. Orisa: Yoruba Gods and Spiritual Identity in Africa and the Diaspora, Trenton, NJ: Africa World Press, pp. 335-353.
2003 「アフリカの神を求めて——ヨルバ・アメリカ人の宗教社会運動における『反白人・反キリスト教』主義の変容」『宗教と社会』第9号、 pp.91-112.
2002 「アフリカ、ヨルバの神々を崇拝するアフリカ系アメリカ人——宗教・文化実践と自己/他者表象をめぐって」『スワヒリ&アフリカ研究』12号、 pp.166-188.
 

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