Single 「シングル」と家族/縁(えにし)の人類学的研究

2012年度第1回研究会(通算第8回目)

2012年度第1回研究会(通算第8回目)
日時:2012年6月9日(土)13:30-19:00 場所:本郷サテライト5階
椎野若菜(AA研所員)
「「シングル」から世界をみる視座:人類学からの発信にむけて」
谷口陽子(AA研共同研究員,専修大学)
「現代日本における『つながり』と『孤であること』の意味の再考」
横田祥子(AA研共同研究員,日本学術振興会)
「台湾の国際結婚:代替可能な『縁』から家族へ」

 


<発表要旨>


「「シングル」から世界をみる視座:人類学からの発信にむけて」
椎野若菜
東京外国語大学AA研

プロジェクト3年目をむかえ、人類学からのシングル研究の成果をどうだすか、その方向性を意識しながら、英語圏人類学においてsingleはいつから、どのようにでてくるのかを概観した。
(1)GPマードックらのOutline of Cultural Materials(5th Revised Edition) Human Relations Area Files, INC.1982、(2) American anthropologistで概観してみた。
(1)のなかにはSingleという項目はなく、類語であるBachelorもなかった。Celibacyという項目、またWidow/Widowerは存在した。
 (2)においては半世紀(1971~2012)を概観すると、Singleが結婚していない人(未婚、非婚)、あるいは単独者としての意ではでてこなかった。この期間(1971~2012)の主な流れは、‘70~’90初は親族研究系の論考が多く、その文脈のなかでの親族名称による男性と女性、とりわけ「女性の地位」を論文タイトルに冠したものがときおりみられた。その際も「女性」はひとくくりで扱われ、性別分業、女性の地位、性別役割、ジェンダーの平等性に関する議論に関するものであった。「男性」を扱うものはほとんどなく1件あったのみで、独身である、結婚している/していないといった人は扱われてこなかった。夫を亡くした女性(寡婦)についてもわずかであった。寡夫は皆無かと思われる。シングルと関連する「ゲイ・レズビアン」が論文タイトルに初めてでてくるのは1995年だった。
そのほかの雑誌にみるSingle、についてもよりくわしくおっていく必要があるが、ひとつの、ひとりの、という文字通りの意味でSingle society, Single Gender…と使用されてきた傾向がつづき、いわゆる「シングル」の意がみえるのは、「シングル・マザー」という語である。American Sociological Review, 1997、Practicing Anthropology 22-1 :2000、とごく最近であることが改めて明らかになった。
以上、用語としての「シングル」の位置づけを考える一方で、これまでの研究会(一期目の「シングル」と社会、二期目の「シングル」と家族)で議論してきた「シングル」を総まとめとしてあらわすときの方針としては、「シングル」を定義化することを目的にはせず、人類学ならではの視点を多角的に示していくことにしたい。「シングル」の身体性、シングルに関する言説、表象、を考慮しながら、主体性だけにとらわれず、構造との関係、関係性のなかにおいて、と「シングル」にまつわる問題系の多様性を提示していきたい。「シングル」に注目することでなにがみえるのか、その広がりをみせる。一期目の成果としては、社会の全体性はどう確保されるか、単独者をはじめとする個<孤>から社会全体を展望してきたい。二期目の成果としては、家族との対比、あるいは家族との関係性のなかで如実に現れ、シングルという問題自体が社会の「家族」の構造を逆照射していることが多いと考えられるところに注目し、「縁」という日本語を軸にシングルをとりまく関係性を考える。縁の一部に親族関係を位置づけることによって、他の社会関係や実践との関係の中で、その特徴をあらわにしていく。


「現代日本における『つながり』と『孤であること』の意味の再考」
谷口陽子
放送大学(非)

本共同研究会における私の課題は、被災の経験が個々の人の取り結ぶ人間関係のあり様や認識にいかなる影響を与え、変化させるのかについて、日本をフィールドとして研究することである。本報告では、私が実施している中越地震の被災地における聞き取りの分析から、人々が語る住み慣れた土地への愛着に焦点を当てて論じた。


台湾の国際結婚:代替可能な縁から家族へ
横田祥子
日本学術振興会/東京外国語大学

婚姻仲介業者の斡旋による国際結婚は、経済的格差を背景に成立し、料金を支払う顧客男性に有利な仕組みとなっている。女性配偶者の選択権は、ほぼ男性が掌握しており、仲介業者と顧客男性と女性の関係性は、あたかも女性身体の商品化、結婚の商品化のようである。台湾人男性と中国、東南アジア系女性との仲介業者斡旋による国際結婚は、再生産労働の国際分業化ストリームと軌を一つにしながら、経済的に自立しシングルを謳歌する台湾人女性の裏で、男子継承者を残し家族の再生産を果たすという伝統的家族観の実現を課されたシングル台湾人男性のオルタナティブとして、30年にわたり継続してきた。本発表では、国際結婚家族の具体事例に基づき、国際結婚家族のトランスナショナルな家族形成と婚姻仲介システムを説明した上で、国際結婚の夫婦が結婚時には代替可能であった縁から、いかにして代替不可能な縁で結ばれた家族への脱却を図ったのか、その戦略について具体的な考察を行った。
 

DATE : 2013.03.04

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