Single 「シングル」と家族/縁(えにし)の人類学的研究

2010年度第2回研究会

2010年度第2回研究会

日時:2010年11月7日(日)13:30-18:00
場所:AA研小会議室(302号室)

椎野若菜(AA研所員)
(1)「「シングル」概念の整理―「シングル」研究を継続するにあたっての前座」
(2)『「シングル」で生きる』合評会


要旨
(1)「「シングル」概念の整理―「シングル」研究を継続するにあたっての前座」
椎野若菜
東京外大AA研

 「シングル」と社会(2007~2009年度)では、「シングル」をより、広義の概念として捉えていく、というスタンスでプロジェクトを進めてきた。「シングル」と家族(2010~2012年度)では、「シングル」と対比されるような、家族、孤をつなげる縁、について注目し

 これまで「シングル」の研究といえば、未婚の父、母(「シングルマザー」「シングルペアレント)、寡婦/寡夫、非婚者といった、結婚という制度を念頭に おいたとき、その制度外にある人々を対象にすることがもっとも一般的であった。日本におけるカタカナの「シングル」という語の使われ方も、文脈に応じかなり揺れが生じてきているのが、近年にみられる事象である。ただ、多くの場合、結婚しているか否か、が大きな要素となっていることは事実である。まず、その一般的なイメージでの結婚していない人(未婚・離婚・非婚)である意の「シングル」をベースに、一般読者を念頭におき、反応もみるべく1冊にまとめてみた(『「シングル」で生きる―人類学者のフィールドから』)。
だが、シングルについて考えるとは、結婚制度に囚われない視点も必要である。人間はどのようなときに、社会的に、物理的に、そして精神的にシングル(一人)になり、生きているのか。そして、どのような生活戦術をもって生きよう とするのか。それは社会によって、どのように異なるのか。本研究の特徴は、社会のなかで、一人一人が自身の思考や社会的背景をもとに、当該社会の社会制度 や社会理念とどのように対処しながら、どのようなネットワークをつくりながら生きていくかを問題化することである。すなわち、出稼ぎ者、高齢者、ジェンダー・マイノリティといった人びとも対象と考えている。つまり彼らは、結婚という制度からみれば、必ずしも「シングル」ではない場合もあるが、地理的や社会的観点からすれば、より大きな社会から孤立していると考えることもできる。こうした「孤」という観点からも「シングル」の概念を彫琢しようというのが、本研究のもっとも大きなねらいであった。
西欧近代化、グローバリズムという大きな波のなかで、結婚の概念や方法、結婚をめぐる法律、それらにともなう非嫡出子の社会的地位や対応、男女のライフスタイルは大きく変化している。多様な文化的宗教的背景、歴史的背景をもった諸社会は、それぞれどのような方向に変化していくのだろうか。あるいは、どのような理念が保持され新たに解釈されるのだろうか。社会固有の理念は、どのように「シングル」をひとつの社会組織のなかに組み入れているのだろうか、あるいははじいてしまっているのか。「シングル」の人びとが編み出す家族、親族、友人のネットワーク、生きるための戦術、そしてそれぞれの社会の変化への適応過程を明らかにしていく。第二期ではより「シングル」に対する「家族」、国策や世論、当該社会における伝統的家族イメージに着目したうえで「シングル」の位置や生き方の可能性について議論していく。

(2)『「シングル」で生きる』合評会

 2010年10月にお茶の水書房より、一般読者にたいし人類学者から世界の、異なる社会システム、価値観からすると「シングル」の社会的地位はいかなるものか、同じ現象をどう捉えるのか、その多様性を発信すべく『「シングル」で生きる―人類学者のフィールドから』を出版した。また、本書のもう一つの目的は、人類学者という他者が単身である異文化社会に入ったとき、当該社会の人たちにどのように受け止められ、影響を及ぼしているのか、という点にも考慮しつつエッセイという形で書いてもらうことであった。
執筆者以外の共同研究員の方がたにご批評いただいた。

・村上薫(アジア経済研究所)
下記の第1章に含まれる3点についてのコメントを行った。
第1章 人類学者のフィールドから
既婚とシングルの「境界」を行き来する女たち――ザンビア・トンガ社会(成澤徳子)/ニューギニアの「もてない男」(田所聖志)/インドにおけるヒジュラと私とのフィールドワーク――「独り」の私から、「二重」の私を感得する(國弘暁子)

・上杉妙子(専修大学)
下記の第2章に含まれる2点についてのコメントを行った。
第2章 シングルから見える社会(1)
イタリアの「シングレ」たちのもう一つの顔(宇田川妙子)/「シングル」をひらく――フランス・パリ地域のひとり×ひと・びと(植村清加)/ひとりで暮らし、ひとりで老いる――北欧型福祉国家の支える「個人」的生活(高橋絵里香)/

・新ヶ江章友(名古屋市立大学)
下記の第2章に含まれる2点についてのコメントを行った。
第2章 シングルから見える社会(2)
「オモニ」というゾウを避け、サイの角にとまること――韓国のシングルの不確かさ(岡田浩樹)/寡婦――都合のいい女?それとも悪い女?

・谷口陽子(放送大学)
下記の第3章に含まれる4点についてのコメントを行った。
第3章 別れの風景
シングルだってへっちゃらよ!?――パプアニューギニア・マヌス島のシングルマザー(馬場淳)/非婚の選択――ポリネシアのクック諸島マオリ流(棚橋訓)/コモロの三くだり半事情(花渕馨也)

・横田祥子(日本学術振興会PD)
下記の第4章に含まれる4点についてのコメントを行った。
第4章 闊歩するシングル女性たち
「シングル」と名乗り始めた女性たち――ネパール版シングル事情(幅崎麻紀子)/「充ち足りた女」の出現?――現代日本のシングル事情(妙木忍)/シングルをはじきだす村、シングルの都・ナイロビ(椎野若葉)/モルギーさんの冒険――北インド農村の物語(八木祐子)

 

DATE : 2012.06.23

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