Single 「シングル」と家族/縁(えにし)の人類学的研究

what's new

publicaion

「シングルで生きる」 人類学者のフィール ドから

編集:椎野若菜

詳しく

information/研究会のお知らせ

研究会開催予告

2012年7月21日 14:30〜19:30    
東京外大本郷サテライト 3F    
http://www.tufs.ac.jp/access/hongou.html

公開で開催します。どうぞいらしてください。                    

「ひとりで、みんなで、『間』を生きる:南カリフォルニアにおけるポリアモリーの事例から」
深海菊絵(一橋大学大学院)

「女性のシングル・ライフを否定する暴力について考える——性暴力から名誉殺人まで」
田中雅一(京都大学)

コメンテイター:成定洋子(東京学芸大学)                    

 

<深海発表の要旨>

「ひとりで、みんなで、『間』を生きる:南カリフォルニアのポリアモリー実践を事例として」

 近年、米国都市部を中心に「ポリアモリー(Polyamory)」という新たな性愛スタイルが展開されている。ポリアモリーとは「複数の者を同時に誠実に愛する実践」のことである。本発表では2011年5月から2012年3月に米国ロサンゼルス市で実施したフィールドワークの報告もかね、ポリアモリー実践者が築く関係性に焦点をあて、事例を中心に発表する。
 ポリアモリーは、「婚姻制度に囚われない、自らの意思と選択による性愛スタイル」という側面をもつ。また、実践者たちが形成する家族は「選択した家族」として当事者たちに認識されている。こうしたポリアモリー実践者たちの関係性を、ポリアモリー理念を共有する同一集団として捉えることも可能だが、本発表では「差異と同一のたわむれ」として、ポリアモリーを捉えていく。
 まず、シングルの視点(本発表では法的な意味でのシングル)からポリアモリーを照射したとき、3人を最小単位とするポリアモリーの関係は、必然的にひとり以上のシングルを含みこむ。たとえば、3人のシングルによって形成されるポリアモリー関係もあれば、既婚カップルと一人のシングルがひとつの家族を形成しているケースもみられる。こうした法的絆の有無に加え、性的指向、宗教、ポリアモリーに対する考え方、等、ひとつのポリアモリー関係ないし「ポリ・ファミリー」の内には様々な差異がみられる。
 分析者であるわたしが彼らの差異を指摘するまでもなく、フィールドで出会った実践者たちは自分たちが差異を抱え込んだ集団であることに自覚的であった。異なる他者(あるいはライフスタイル)を受け入れる柔軟性こそ、自らの生を豊かにするツールに成りうる、と声に出す実践者たちも少なくない。
 では、彼らが他者と共に生きるために編み出した術や知とはいかなるものなのか。実践者たちは、いかにポリアモリーという関係性を――ひとりで、みんなで――生きているのか。本発表では、これらの問いを事例から提示し、最後に、ポリアモリーが築く関係性を捉えるための視座について考察を加えていく。
 

<田中発表の要旨>

「女性のシングル・ライフを否定する暴力について考える  性暴力から名誉殺人まで」

 女性への暴力Violence against Women(VAW)について、昔からさまざまなかたちで議論されてきた。本報告では、VAWについて、つぎのような問題意識から分析を加えたい。
1)分類と比較。一言でVAWと言っても、ヘイト・クライム(hate crime憎悪犯罪)として理解される傾向のあるレイプと特殊文化的な現象とされるインドのサティー(寡婦殉死)やアフリカのFGM(女子割礼)は性格が異なる。レイプと違って後者のふたつは当事者にとって暴力とみなされていないからだ。男たちは憎しみや偏見から敵の女性をレイプすることはあっても、サティーを強要したり、FGMを行うということはない。しかし、植民地支配の状況で、あるいは国際的な批判のもと、これらは「暴力」となった。さらに、今日注目されている名誉殺人や硫酸を女性の顔にかけるといった非人間的な行為は、ヘイト・クライムとも言えるが、それだけでは説明できない。このようにVAWの内実は多様と思われるが、にもかかわらず、女性のシングル・ライフという視点から考えるとき に、共通する意図を認めることも可能と思われる。
時間があれば、以下の2点についても考えてみたい。
2)暴力一般との関係。わたしは、1998年に公刊された『暴力の文化人類学』以来、宗教儀礼における「暴力」についての分析を進めてきたが、VAWをより広い暴力の文脈に位置づける必要があると考える。
3)言説の暴力。非西欧社会でのVAWは、西欧社会や国際社会からVAWとみなされてはじめてVAWとなり、問題化する傾向にある。この点についても考えてみたい。



"Living in between:A Case Study of Polyamory in Southern California"
FUKAMI, Kikue (Hitotsubashi Univ.)


"Violence against Women's Single Life: From Rape to Honour-based Violence"
TANAKA,Masakazu (Kyoto Univ.)

Commentator
NARISADA, Yoko (Tokyo Gakugei Univ.)
                          

ページ先頭へ

お問い合わせ

Copyright (c) Tokyo University of Foreign Studies. All Rights Reserved.

AA研共同研究プロジェクト